2025年5月4日

かつて、「知っていること」「できること」こそが、専門職の力を測る指標とされていました。けれども、テクノロジーの進化とともに、私たちは新たな時代に突入しています。特にAIの発展は、ファイナンスの世界にも大きな影響を与えつつあり、「知識の保有」だけでは差がつかなくなってきました。

では、今、そしてこれからのファイナンスプロフェッショナルにとって本当に重要なものとは何でしょうか?


1. 肩書き—資格とポジションの意味が変わる時代に

AIは、あらゆる業界の「知識の標準化」を加速させています。ベストプラクティスや定量的な分析モデルは、誰でも容易にアクセス・活用できる時代となりました。したがって、知識そのものだけでは他者と差別化しづらくなっています。

その中で改めて注目されるのが、「肩書き」の存在です。ここで言う肩書きとは、資格(たとえばCMAなど)や、役職(たとえばCFO、経営企画部長など)を含みます。これらは単なる飾りではなく、その人のキャリアや責任、判断力、そして過去の積み重ねを裏付ける「信用の証」として、今後さらに重みを持つことになるでしょう。

2. ビジネスコミュニケーションとEQの重要性

AIがどれだけ発達しても、すべてを一人でこなすのは現実的ではありません。むしろ、AI時代だからこそ「人との協働」がますます重要になっています。社内外の関係者と信頼を築き、共に価値を創造する能力は、単なる論理力(IQ)を超えた「人間力」、つまりEQ(感情知能)が問われる領域です。

他者の立場を理解し、共感し、巻き込む力——それがなければ、いかに高度な分析ができても、その成果は組織の中で活かされないまま終わってしまいます。

逆に、極端に論理的でコミュニケーションが苦手なタイプ(いわゆるアスペルガー的傾向を持つ人)は、AIが補助してくれる部分はあるものの、リーダーシップや戦略設計の現場では不利に働くことも増えていくでしょう。

3. 法律で守られたライセンス業務の価値

ファイナンスの一部業務は、資格を持つ者にのみ許される「法的に保護された仕事」です。例えば、公認会計士、税理士、CMAなどが行える業務には、一定の独占性があります。これはAIがいくら進化しても、すぐには変わらない「制度的価値」です。

もちろん、将来的には規制緩和や制度改革の可能性もありますが、既得権益とのバランスの中で急激な変化は起きにくいでしょう。したがって、こうした「法的な保証のある専門性」は、長期的なキャリア戦略において大きな武器となります。

4. AIリテラシーと“使い方の美学”

AIを使えば、短時間で95点のアウトプットを出せる時代です。しかし、それが常に正しいとは限りません。例えば、本来自分が75点程度しか出せないタスクでAIの力を借りて95点を出すのは「ズル」に近い。しかし、自分で95点を取れる力を持ったうえで、時間短縮や効率化のためにAIを活用するのであれば、それは「戦略」です。

つまり、AIは“カンニングペーパー”ではなく、“コーチ”として使うのが正しいスタンスです。この使い分けを意識できることが、AI時代のプロフェッショナルとしての「品格」にもつながっていくでしょう。

5. 判断力・決断力・そして資産

テクノロジーは多くの情報を与えてくれますが、「どれを選び、どう行動するか」は依然として人間の役割です。AIは提案こそすれど、最終的な意思決定や責任までは担ってくれません。

そしてその判断を下すには、冷静な分析力だけでなく、前に進む勇気や、状況に応じた柔軟な決断力も求められます。また、それを支える“資産”、すなわち金銭的・人的・知識的な蓄積も、自由な行動を可能にする重要な要素です。


前提:テクノロジー進化の系譜を理解する

AIを正しく理解するには、これまでのテクノロジーの進化を俯瞰することが役立ちます。

  • 1990年代:パソコンの普及(ハードの民主化)
  • 2000年代初頭〜:インターネットの普及(ソフトの民主化)
  • 2010年代:スマートフォンの普及(ハードの常時接続の民主化)
  • 2020年代〜:AIの普及(ソフト面での意思決定支援の民主化)

この流れの中で、ファイナンス分野も例外ではありません。データ分析、予測、報告書作成などはAIが代替しつつありますが、逆に「人間として何ができるか」が問われる時代です。


AIに任せるべきことと、人間が担うべきこと。BirdStarは、ファイナンスの未来に必要な“本質的な力”を育てる場として、学びの機会を提供していきます。
これからの時代に求められるのは、知識の詰め込みではなく、「信頼」「判断」「行動」のバランスを持ったプロフェッショナル。
その第一歩は、自分の価値を改めて問い直すことから始まります。